2.1.ⅰ.はじめに

だれもが追い求めている「幸福」とは、「満ち足りた状態にあって、幸せだと感じること。」(広辞苑)との意味を持ち、なにを幸福と考えるかは、人それぞれに異なっているかもしれない。しかしもともと幸福の「幸」は「獲物をとる道具」「漁猟に獲物の多いこと。また、その獲物」の意味を持っており、また「福」は「神仏の賜り物」(広辞苑)を意味することから、「幸福」とは物質的に満たされた状況から生じる楽しい様子、を意味したのであろう。ところで物質的に(これに金銭も含むならば経済的に)満たされることは、幸福になるために必要な要件のひとつであるかもしれないが、それのみでは十分ではないことは、一般に良く知られた事実だ。たとえば日本では、1人当たりのGDPがOECD諸国平均より高いにもかかわらず、自身の生活全般に対する主観的な評価は逆に低い(浦川2011)。また、金持ちならば必ずしも幸福ではない。(文学作品にも取り上げているように、お金があればあるほど、不幸になってしまう可能性すらある。)それでは、我々が心底求めてやまない本当の幸福とはどのようなものなのだろうか。金銭や物質的な範疇だけでなく、それらを超えたところにある、とても大切な満ち足りた心情を与えうるもの、そのようなものがあるなら、それは心やたましい、というようなレベルで扱うべきものあろう。満たされるべきものは、自尊心であるかもしれないし、連帯感であるかもしれない。いずれにせよ、「満たしてくれる」何かであろう。もしくは「安心」して生活できる基盤かもしれない。

このように、心やたましい、のレベルで人の指向性や行動原理、または態度に影響を与えるその人独自の性質は、そのひとを「満ち足りている」ようにするために、決定的に重要である。もしも「満ち足りている」人が人生における成功者だとするなら、そのような人になるためにはどのような能力が必要なのだろうか。

成功者となる能力はコンピテンシーと呼ばれるもので、知性や態度など複雑な要素が関わっており、本稿ではOECDがPISA調査と同時に開始したDeSeCo(Definition and Selection of Competencies:コンピテンシーの定義と選択、1997年に開始)プロジェクトを例にあげて、解説する。さらにコンピテンシーと科学技術リテラシーの関係について文献調査し、日本人のためにコンピテンシーとリテラシーについて考察する。