2.1.ⅱ.コンピテンシーとは

ハーバード大学の心理学者のマクレランド(David C. McClleland:1917-1998)は、1970年代初めにアメリカ国務省から「学歴、知能など同じレベル若い外交官が開発途上国に駐在後、帰国時には業績に差がでるのはなぜか?」という調査の依頼を受けた。マクレランドなど心理の専門家グループが面接や観察で調査した結果、次のことが分かった。

・ 学歴や知能はさほど業績には関係ない

・ 優れた業績者には、次の共通した行動特性がみられた。

 ①異文化における対人関係の感受性が優れている
 ②どんな(嫌な)相手でも前向きに接し人間性を尊重する
 ③人脈を早く把握し、自ら構築するのがうまい

したがって外交官採用試験において、将来の業績を判断するためには従来の知能テスト・知識内容テストなどは不適である。そこでマクレランドは,伝統的な知能テストや適性検査に代わる測定方法として以下の6つの原則を提案し,「知能」の代替的アプローチとして「コンピタンス(competence)」という用語を使用した(加藤、2011年)。

  1. テストは職務を実際に遂行している個人の行動を分析し、
  2. 個人が人生における様々な職務での成功を通じて得てきた経験、知識、能力といった重要な変化(上達した部分)も測定できるように設計される必要がある。
  3. また、測定された人が自分でどのようにその特徴を改善すればよいのかが明らかされているべきである。
  4. コンピタンスは、多くのクラスターからより一般的に使用するものを評価することが望ましく、
  5. 前もって設定された答えを選択するといった反応的な行動だけではなく、突発的に起こった状況に対して自発的に行う行動も考慮しなければならない。そのためには、
  6. 結果として現れた行動だけでなく、その行動を裏づける思考パターンにも焦点を当てて一般化できるコンピタンスを見つけなければならない。

このマクレランド(1973年)の論文が、「コンピタンス(competence)」概念をビジネスの世界に導入させるきっかけとなった。その後(1976年頃から)マクレランドは、「コンピタンス(competence)」ではなく「コンピテンシー(competency)」という語を用いるようになり、1990 年代に入るとアメリカではほとんど「コンピテンシー(competency)」に統一されている(加藤恭子、2011年)。コンピテンシーは、その分野の高業績者(Hi-Performer)の成功達成の行動特性をモデル化したものであり、1990年代に入ってアメリカの人的資源管理に導入されるようになった(谷内、2001年)。特にSpencer & Spencer(1993年)のコンピテンシーの範囲図(図2-1-1)は氷山モデルと呼ばれ、水面下に隠れた開発しにくい「特性や自己概念」などの部分と、水面上に出ている開発しやすい「知識やスキル」といった部分とで構成されている(加藤恭子、2011年)。

コンピテンシーモデルはアメリカで様々に発展し、ビジネス世界では「高業績者の行動特性」としてコンピテンシーを捉え、各業種における人事(採用・昇進)の評価法として用いられた。各企業のモデルは、コンサルタント会社などの協力のもと、各企業で策定され、その流れが1990代の後半には日本にも及んだ。

図2-1-1 氷山モデル