3.1.ⅱ.「科学技術の智プロジェクト」の掲げるビジョン

「科学技術の智プロジェクト」の掲げる「日本の将来像」についての記述は、プロジェクトの総合報告書の中に散見される。主なものとして、以下の様な記述を挙げることができる(注:太字による強調は筆者)。

  • この科学技術の智プロジェクトは、すべての日本人が身に付けてほしい科学・数学・技術に関わる知識・技能・考え方を提案しようという試みである。
  • この「科学技術の智」の報告書は、現在の学問の枠組みをそのまま教育の場に移すことを目的とした解説書ではなく、むしろ、今これから育っていく世代がすべて成人となる2030年の日本のあるべき姿を想起し、すべての人々が様々な職種、年齢などの相違を超えて恊働して、世界的な課題に取り組み、心豊かで健康的な社会を作っていくために、いかなる知慧が共有されていなければならないかという壮大な問いかけに応えようとするものである。

(「科学技術の智プロジェクト総合報告書刊行にあたって」)

  • 「科学技術の智プロジェクト」は、日本人が心豊かに生きるためにすべての大人が2030年の時点で身に付けておいてほしい科学技術の素養(これを「科学技術の智」と呼ぶことにする)を提示することを目指している。…2030年を目標としているのは、その時が、今の時代に生まれた子どもが成人として社会を背負って立つ時であり、それまでに、本プロジェクトで提言されるような科学技術の智が、社会全体に行き渡っていることを期待してのことである。

(1.1.2030年を目指す科学技術の智)

  • 現代の地球規模の環境危機ならびに人口構成の危機的状況に対処し、「世界人権宣言」に盛られた理想的な社会を実現し持続していくためには、自然環境や社会状況を正しく把握し、客観的な判断を下し、個人も社会も協同して現代の課題に挑戦するために、科学技術の智を共有することがすべての人々に求められている。

(1.2.科学技術の智に関わる現代の課題と将来の社会像)

  • 科学技術の発達は、一人ひとりに科学技術に関わる判断を迫っている。…ごく身近な生活においてさえ、科学技術の知識と応用が求められている。…科学技術の運用や科学技術と社会とのよりよい関係を築く役割を一部の専門家だけに任せておいてよい時代は終わったともいえる。

(1.2.4.科学技術との関わりでみずから判断を)

  • 私たちが抱く日本の将来像は以下のようなものである。
  1. 社会の構成員一人ひとりがかけがえのない存在として認められること。
  2. 社会の構成員のすべてが地球という環境を慈しみつつ持続可能な社会を実現するための叡智を共有して活動を起こせること。
  3. 社会のあり方として、若者が将来への希望を抱きつつ文化を継承していけるシステムが有効に稼働していること。

(1.2.6.日本の将来像)

  • このプロジェクトとしては、社会を構成する個々人が、持続可能な民主的社会を創出するために共に社会の一員という自覚を持って決断し行動するための力となるような科学技術の智慧とは何かを明らかにしたい。現代社会で求められているのは、それぞれ高度化した科学技術研究の現場を担う専門家だけではなく、科学技術の素養を持ちつつ、みずからと社会全体の豊かさを追求していける個人なのである。

(1.3.21世紀を豊かに生きるための科学技術の智の必要性)

これらの点を統合的に解釈すると、「科学技術の智プロジェクト」の掲げる「21世紀を心豊かに生きるにあたり、『持続可能な民主的社会』を構築する」という「日本の将来像」は、下記のような個人と社会の間の関係性を構築するということを指向するものであると言えよう。

(a)社会のすべての人々が様々な職種、年齢などの相違を超えて、世界的な課題(現代の地球規模の環境危機ならびに人口構成の危機的状況など)に取り組む

(b)持続可能な民主的社会を創出するために、社会を構成する個々人が共に社会の一員という自覚を持ち、みずからと社会全体の豊かさを追求し、決断・行動する

(c)科学技術の素養を持ち、自然環境や社会状況を正しく把握し、客観的な判断を下す

また、目指すべき社会の方向性やあるべき社会の仕組みとして(a)や(b)が望まれており、それを実現するために必要な要素として(c)を位置づける、という各項目の関係性も読み取ることができる。