3.1.ⅲ.科学技術リテラシー涵養活動の対象とする主体の多様性

第3章1-ⅱでみたように、「科学技術の智プロジェクト」の目指す社会像においては、科学技術リテラシーを保持する主体として、「すべての日本人」「すべての人々」「日本人」「すべての大人」「社会全体」「(社会の構成員)一人ひとり」「社会を構成する個々人」といった集団が想定されている。しかし、そのような大きな括りの集団に対して科学技術リテラシーの涵養を主張することは、そのような集団を構成する個々人の様々な側面についての多様性に対する注意を削いでしまうことになりかねない。科学技術リテラシーの涵養活動が、その対象とする主体の生活に対する介入である以上、活動の対象とする個々人が持つ考え方・価値観・行動などの多様性についての理解を持つことが重要である(c.f. Mohr, Raman and Gibbs, 2013)。科学技術についての知識や科学の考え方・作法を用いる目的・状況・文脈は個々人によって大きく異なっており、すなわち、個々人が科学技術リテラシーに対して持つ関係性は一様ではない(e.g. Michael, 1992; Wynne, 1992)。また、科学技術リテラシー涵養に向けた教育・文化活動の場としての教育研究機関や図書館等の情報提供機関の量は地域ごとに大きく異なっており、また、そのような場への参加に必要な経済的・文化的な資本も社会の構成員が均等に保持しているわけではなく、地域・家庭・個人といったレベルで極めて大きな差がある(Dawson, 2014)。このような、科学技術リテラシー涵養活動の対象として想定される地域や個々人が置かれた状況の多様性について実証的に調査した上でよく理解し、それに対する十分な配慮を行うことによって初めて、科学技術リテラシー涵養活動が目指す社会像についての具体的な議論や、実際の涵養活動の具体的な内容の検討が可能となる。