3.2.ⅱ.提言

これまでの本調査・研究の成果や議論をもとにして、科学技術リテラシーの新たな段階に向けて、科学技術リテラシーの新たな枠組み、新たな創出の場、そして、新たな世界、を提言する。

1.科学技術リテラシーの新たな枠組み

(1)科学技術リテラシーを獲得することで、どのように「豊かに生きる」ことができるのか(どのようなメリットがあるのか)を、科学技術リテラシーに無関心な人が納得するような説明を考える。
 科学技術リテラシーは、主に科学そのものの理解やそれから得られた知識などで構築されているものであるが、それを単に学ぶだけで「豊か」になると主張しても、「科学技術リテラシー」に無関心な人にとっては、納得できるものではないだろう。コンピテンシーとの関係を明らかにするだけでなく、科学そのものが内包している、不確実・不確定性とどのように折り合いを付けて「安心して満ち足りた」自分になれるのか、熟考する必要がある。

(2)不特定多数の「すべての人」を一様なものと捉えずに、その多様性を踏まえた上で科学技術リテラシー涵養のための具体的な議論・取組みを進める。
 科学技術に対する考え方や価値観は個人によって大きく異なっており、また、科学技術についての知識や科学の考え方・作法を用いる目的や状況・文脈、そのために用いることのできるリソースの量も個人差が大きい。そうした多様性に対する配慮は、科学技術リテラシー涵養活動を行う上で欠かせない。

(3)人間の生涯にとっての科学技術リテラシーとそのための生涯学習のあり方を考える。
 成人として生涯学習において科学技術リテラシーが関係する場面は多様である。一方では、個人として純粋に好奇心として取り組む、また世界観が広がるなどの教養としての科学技術リテラシーという側面があり、他方では、地域課題への協働的なプロジェクトへの参加や個人の問題への対処など課題解決のための科学技術リテラシーもある。もちろん、民主的な判断のための科学技術リテラシーも必要である。そのための多様な学習のあり方を考える必要もある。

(4)グローバルで世代を越えた科学技術リテラシーを考える。
 現代の世界では文明や宗教の衝突が起こっている。また、世代間の抗争も否定できない。将来の社会においては、そのような可能性がますます高まるであろう。そこで、科学リテラシーは時代や社会に合わせた絶えざる改訂が必要であり、グローバルな視点や世代を越えるという視点も求められる。

(5)「個人」としてだけではなく「社会」全体として保持する科学技術リテラシーを考える。
 科学技術についての情報を必要とする人々に対して、個人的文脈の多様性に配慮し、個々のニーズに応えるように情報提供を行えるような制度整備を進めることが必要である。

 2.科学技術リテラシーの新たな創出の場

(1)科学技術リテラシーが民主主義の協働の基盤であるという認識を共有する。
 科学の営みは、アプリオリな権威を認めず、さらに、情報は公開される。科学技術リテラシーや科学コミュニケーションはこのような科学の営みの持つ民主的な協働性を内包している。それだからこそ民主主義の発展にとって科学技術リテラシーや科学コミュニケーションさらにはリスクリテラシーが不可欠であるという認識を共有する必要がある。

(2)科学者と生活者とが双方向のやりとりを行える場・機会を積極的に設定する。
 科学者と生活者とが双方向のやりとりを行える場・機会においては、生活が総合的な営為であることを踏まえつつ、科学者は、科学技術リテラシーに対する生活者の動機づけが高まるような現実味のある素材選定を工夫する。生活者は、科学技術(リテラシー)について理解し、知りたいこと・解決してほしいこと等を表出する。

(3)科学技術リテラシーを考えることを継続的な運動とする。
 科学技術リテラシーは、シンポジウムやウェブサイトなどを活用して多くの人と議論し、共有することが普及活動になると考えられる。科学技術リテラシーの普及を、多くの人との継続する運動と考えることが重要である。

(4)政策への市民参加を推進する。
 科学技術リテラシー涵養推進の前提として、人々がより積極的に政治の場や政策形成過程に対して参加できる場が社会の中に開かれた形で用意されている必要がある。

 3.科学技術リテラシーの新たな世界

(1)コンピテンシーが何なのか、リテラシーが何なのかを、しっかりと考察する必要がある。
 人生において成功することが、「安心して満ち足りた」すなわち「豊かな」人生につながっているとするならば、「安心して満ち足りた」心情にする能力や態度を「コンピテンシー」と呼ぶことができる。「コンピテンシー」を実行する際に用いるのが「リテラシー」であるので、「科学技術リテラシー」が何であり、それをどのように用いれば「安心して満ち足りた」自分になれるのか、という問題を解き明かすことが必要となっている。グローバルな視点で考えるならば、「日本人のための」が特に重要になってくる。 

(2)各主体が自分にとっての「科学技術リテラシーへの扉」を持つ:例えばリスクリテラシー
 科学技術をめぐっては、行政機関、企業、大学、NPO、生活者等の多様な主体が関わっており、そこでは各主体がリテラシー涵養の主体となり得る。立場は異なるが、各主体は、自分にとっての「科学技術リテラシーへの扉」を持ち、自分のペースで扉を開け涵養への道程を進んでゆくようになりたい。そのためには、涵養の主体が科学技術に対して当事者性と日常性を感じることが必要である。この要件を満たすという観点からも、また科学は不確実性と暫定性を本質として有しているという観点からも、生活リスクに関する「リスクリテラシーへの扉」は開けたい扉の1つとなる。

(3)意見の異なる相手に対する建設的な批判を行う方法を「話し合い」の中で学ぶようにする。
 コミュニケーションの問題は、必ずしも国語科の問題ではなく、社会や理科にも関わる問題である。科学や技術の知識の不確実・不確定性を前提に、課題解決に資する批判をしあえる能力を養う必要がある。特に、中等教育関係者は、意見の異なる相手に対する建設的な批判を行う方法を、授業内の「話し合い」の中で生徒に学ばせる必要がある。

(4)科学や技術の知識には不確実・不確定性があることを学ぶようにする。
 科学や技術の知識には不確実・不確定性がある。中等教育の理科、数学、社会、技術、情報などにおいて、科学や技術の知識には不確実・不確定性があり、技術の安全神話のような絶対的なものはない中で判断が行われていることを扱い、それとともに、社会の科学や技術に関わる事象においては誤差を前提とした判断が必要になることを実例とともに生徒に学ばせる必要がある。

(5)科学のあり方や科学の説明の仕方など科学について考えるようにする。
 科学を決まった知識としてだけではなく、議論されている知識として捉え、それを一般の人に説明する際の技法も考えるようにしたい。例えば、大学の教養において、一般の人に科学を説明するときに、単にその知識だけではなく、科学の知識の不確実・不確定性や再現性など科学のあり方について説明できるようにする。そして、科学とともに、文明史や人類史も含めるようにする。

(6)科学技術リテラシーをより大きな人間全体の社会・文化の中で俯瞰するようにする。
 科学技術リテラシーには自然科学だけではなく人間科学や社会科学も含めるものである。このことはさらに科学技術リテラシーをより大きな人間全体の社会・文化の中で捉えることを求めている。一方で、具体的には高等学校からの早期の理系・文系への分割を再考したり、さらには、国民全体の科学技術リテラシー向上に向けて、非理数系を含めた中等教育全体の底上げを図ったりすることへとつながる。

このような提言を踏まえて、さらに、「新たな問い」として、最後に、科学技術リテラシーに関する継続した議論、 定着に向けた取り組みに向けて、次の3点を挙げておく。 

(1)新たな視点 
 例えば、ICT技術の利活用など。

(2)普及や定着に向けた、多様なステークホルダーとの連携
 例えば、フォーマル、ノンフォーマルな教育の場との関わり、デジタル・ネイティブ など。

(3)グローバルな視座 
 例えば、アジア諸国との連携など。